寿命100歳時代を見据えて、70歳定年を推進しながら、年金の受給年齢の繰り下げを推進している政府。
皆さんは、年金繰り下げをどうお考えですか?
年金繰り下げは1ケ月遅らせると0.7%づつ受給金額が増えていきますので、1年遅らせ66歳受給にすると8.4%増の年金が受け取れるようになります。
受給金額と繰り下げ後の金額は、以下のような関係になっています。(小数点切り上げ、1月遅延0.7%増で計算)
●図ー1 年金繰り下げ受取金額
標準年金といわれる年金収入の210万円で計算してみますと、5年繰り下げすると42.0%アップの約300万円になります。
月の収入で考えてみますと、月額17.5万円の年金が約25万円にアップし、生涯受け取れるようになります。
現在の介護施設にかかる費用が、1人で月額15~17万円と言われていますので、25万円へのアップはとっても心強いですよね。
金利がほとんどつかない今、年金利8.4%はとても魅力的ですから、借り入れしたりなんとかやり繰りして、繰り下げしてみようという気にもなってきます。
年金にかかる税金とは
しかし、この繰り下げアップ、鵜呑みにできないことがたくさんあります。
年金も収入ですので、収入に応じて、所得税、住民税、国民健康保険、介護保険料などがかかってきます。
いったいどれ位の金額がかかってくるのかを、一覧にしたのが下の表です。
●図-2 年金実受け取り金額
年金金額、税保険等の金額、実質の手取り金額、負担率の順に表示しています。
65歳で年金受取り金額210万円の人が5年繰り下げた場合の金額は、「表-1 年金繰り下げ受取金額」で見ると298万(約300万円)になります。
しかし、年金が増えた分、所得税、住民税、国民健康保険、介護保険料もアップし、税保険料等の負担金額は19万円から45万円にアップしてしまいます。
このため実質的にアップする金額は、191万円(210万円の実手取り)から255万円(300万円の実手取り)の64万円となります。
5年遅らせれば88万円アップすると思ったら、64万円しかアップしてないことになります。しかも、税金もたくさん払うことになるのです・・。
年下の妻がいる場合年38.98万円の加給年金もなくなる
さらに、年金繰り下げをすると損をすることがたくさんあります。
大きいのは、年下の奥さんがいる場合に支給される「加給年金」。
加給年金とは、厚生年金の人に適用されるもので、一定の要件を満たした子供や配偶者がいる場合に、プラスされる年金です。
夫より年下の妻の場合、妻が65歳になるまで年額38.98万円が支給されます。(詳しい条件の説明は省きます)
夫が年金の繰り下げをした場合には、この加給年金も支給されなくなるのです。
医療費の自己負担の限度額
また、年金を遅らせて支給額が増えることで、医療費の負担割合、高額療養費自己負担限度額なども変わってきます。
●図ー3 患者負担割合及び高額療養費自己負担限度額(現行)
資料:厚生労働省 医療費の自己負担より
このように、年金が増えることにより負担が増えてくるものがたくさんあるため、単純にアップする金額だけで計算していては判断を誤ってしまいます。
「人生100年時代、年金を繰り下げ受給したほうが得」という説明は、年金支給金額を減らすための政府のカラクリにしか見えないのは、私だけでしょうか。
(情報参照先:日本経済新聞 2018年11月24日)